会社を倒産させるという事

35歳で会社を倒産させた壮絶な日々を赤裸々に綴ります。

11.債権者集会(第1回)

5月30日

 

いよいよ債権者集会の日

 

僕の気持ちとは裏腹によく晴れていた。

14:30~スタートのため14:00の裁判所ロビーで弁護士の先生と待ち合わせをした。

当然ながら一睡もしていない。

極度の緊張のためだ。

 

98kgあった僕の体重はこのとき87kgまで落ちていた。

黒いスーツとグレーのネクタイで行くことにした。

こんな時に赤いネクタイは債権者の気持ちを逆撫でするのではないかと精一杯配慮したのだ。

 

債権者集会なんてもちろん初めての事だ。

勝手がなにもわからない。

職業柄、人馴れしている僕もさすがに極度の緊張状態だった。

なんせ僕に恨みを持つ人たちに会う事になるのだから。。。

 

14時になり、弁護士と裁判所1階ロビーで落ち合った。

債権者も通るかもしれないからという事で、僕は隅のほうに隠れさせてもらった。

こんな時の時間の流れは本当に早いものだ。

会場に入りたくない気持ちが強くなればなるほど、あっという間に時間が過ぎていく。

 

14:25分になり弁護士から会場に入る旨告げられた。

一気に僕の鼓動は高まった。

 

入口で会社名を告げて入ると、想像していたものよりはるかに大きい会場であった。

僕はてっきり個室かと思っていた。

ところが部屋には何十人もの人たちがいる。

もちろん空気もとてつもなく重い。

きっとこの中に債権者の方もいるのだ。

僕は下を向いて一番後ろの席に弁護士の先生と座った。

 

広い会場の前方にはホワイトボードがあり、会社名が書いてあるようだ。

そして、部屋の端と端にはテーブルとイスのセットがいくつもあった。

その時間は7件同時に行うようだ。

そういうものなのか。。。

完全にイメージと違う。

ホワイトボードには僕の会社が2番目に記載されている。

 

そしてとうとう時間になると、一人の人が前方のホワイトボード横にたった。

 

「今から債権者集会を始めます。名前をお呼びしましたら、債務者の方と債権者の方は各テーブルに移動して下さい。」

 

1番目の会社が呼ばれ、僕は変な汗が背中をつたったのがわかった。

次は僕だ。。。

 

「株式会社○○(僕の会社)、○○(僕の名前)さんの債権者の方は2番テーブルに移動して下さい。」

 

大声で呼ばれ、「席を一斉にたった人数が多い。。。」と思った。

それでも下を向きながら弁護士と一緒にテーブルに向かった。

 

テーブルの上には債務者と債権者の札が置いてあり、僕と弁護士の先生は隣り合わせに座った。

テーブルのサイドに破産管財人と裁判官。

僕の向かいは債権者という並びであった。

知っている人が8人、初めて見る人が2人。

どなたかの弁護士だろうか。

僕はそう思った。

 

ちなみに僕の席からは会場の全方向見渡せた。

あきらかに僕のところが一番多かった。

債権者のイスが足りてないので隣から借りてきていた。

 

裁判官が

 

「これから株式会社○○(僕の会社)の債権者集会を始めます。破産管財人のほうからお願いします。」

と言うと。

 

破産管財人から自己紹介のあと会計報告のような書類が全員に配られた。

預金残高や未回収金、未払い金などの詳細資料だった。

こういう状況なので当然と言えば当然ではあるが悲惨な内容の書類であった。

その内容を破産管財人から債権者に説明を始めた。

そして「配当できる見込みはありません。」と続けた。

 

「この人、間違いなく資産隠してますよ!証拠もありますから。これは立派な詐欺事件ですよ。」

と、一人が言った。

 

そして、それを発した本人と破産管財人が僕を見た。

いや、全員僕を見ていただろう。

僕はたまらず

 

「そのような事実はございません。」

 

と、答えていた。

なんとなく政治家の気持ちがわかる瞬間であった。

しかし、この日答えたのはこの一言だけである。

謝罪の一言も言える時間はなかった。

頭も下げるタイミングすらない。

 

 

一番厳しい意見はこれであるが、他にも色々厳しい言葉が飛び交っていた。

僕はまだ現在も最中なので詳細までは書かないが、主には

 

「○○の時に振り込まれた時のお金の使途を教えて下さい。」

 

「ベンツはどうしたんですか?」

 

「○○には○○の件で入金があるって聞いてましたけど、それはどうなったんですか?」

 

等々、本当に政治家の証人喚問のようであった。

しかし、大きな違いは僕は答えていない。

 

僕はこの債権者集会の途中で違和感を覚えていた。

この一回で終わるものだと思っていたのだ。

ところが、まず破産管財人が会計報告をしている最中にも、「これに関しては現在も調査中です。詳細がわかりましたらご報告します。」と、言っていた。

 

「ん・・・?調査中?報告します?いつ?」

頭が混乱した。

 

そして債権者の方々からの厳しい尋問にも、「証拠となる書類などは、あるようでしたら後日提出して下さい。」と、言っていた。

ひょっとしたら一回では終わらないのか・・・?

そう思うしかなかった。

 

この債権者集会中、まわりのテーブルが続々終わって帰っていくのが見える。

早いテーブルは5分くらいだろうか。

僕のテーブルのみとなった。

みんなこちらを眺めながら会場を出ていく姿が見えた。

 

どうやら15:30~次の債権者集会があるようだ。

僕のテーブル以外空になった会場に続々と人が入ってくる。

 

とにかく僕のテーブルは荒れていた。

 

時間もギリギリなんだろう裁判官も切ろうとしている。

そんな気がした。

確かに次の債権者集会が始まろうとしている気配がしていた。

けっこうなギャラリーの数だ。。。

僕は恥ずかしがる気持ちの余裕もなかった。

 

そして破産管財人が、次回ある旨を告げて締めくくった。

そうすると裁判官が

「次回は9月4日、時間は同じ14:30~でいかがでしょうか?」

と債権者達に問いかけた。

皆さん同意し、僕に問いかける事なく次回の日程が決まった。

 

「そんな先になるのか・・・。」

と内心思ったが、今日の内容が非常に厳しいものであったので、次はもっと厳しくなりそうだなと思った。

 

そうして第一回目の債権者集会が終わった。

と、思いきや裁判官は

「続きまして○○(僕の名前)さん個人の債権者集会を始めます。該当者の方々のみ残って下さい。」

と、言った。

2人残っていた。

 

「・・・?」

 

法人のほうと同様に破産管財人からの説明があった。

しかし先程とは違い、こちらは5分程度であっさり終わってしまった。

終了後に弁護士から聞かされた内容によると、個人のほうで残っていた2人は僕個人を訴えようとしているとの事。

 

そして今度は本当に債権者集会は終わった。

出口は同じ。

債権者が退席するのを確認して僕も出ることにした。

次の債権者集会が呼ばれ始めていたので、わりと入り乱れているように見えた。

誰か待ち伏せしてるのではないだろうか。。。

そう思ったが、誰とも会う事なく僕は裁判所を後にした。

 

ふと、以前破産管財人に言われた言葉を思い出して不安がよぎった。

 

僕は免責不許可になるかもしれない。

 

この日は、よく晴れていた。

若干暑かったかもしれない。

理由はそれだけではないが、

僕のスーツは汗で重たくなっていた。