8.夜逃げ
弁護士にも会社の破産手続きを依頼をした。
同時に個人の破産も当然ながら依頼をした。
当初2013年12月に依頼したかったのだが、紆余曲折あり2014年1月末になってしまった。
やりとりは全部弁護士がやってくれるのか。
少しだが肩の荷が下りたような気がした。
費用に関しては裁判所への予納金というものがあるらしい。
それに弁護士費用を合わせて、約90万円と考えておいてほしいと言われました。
色々調べたものより安いのかなと感じた。
そうか顧問弁護士が少額管財でいけると言っていたなと思い出した。
弁護士の報酬は、破産手続き中に回収できるものを充てるように努力しますと言ってくれた。
もちろん支払いばかりではなく、回収できる資金も微々たるものながらあったのだ。
不動産会社の多くが加盟している不動産保証協会への供託金60万円もそれの一つだ。
弁護士の先生から「受任通知」を債権者の方々に送ってもらったが、破産手続きは難航していた。
それでもやはり僕に連絡してくる方はしてくるのだ。
この頃の僕はもう会社には行っていない。
自宅へも誰か来ているようだ。
インターホンの鳴り方でだいたいわかるものだ。
音は同じでも殺気立って聞こえるのだ。
いよいよ会社が倒産する事を知って、激怒している方も多いだろう。
僕が資産隠しをしていると思っているようだ。
話しは反れるかもしれないが、僕も会社を倒産させることについて色々調べたり聞いたりしてだいぶ詳しくなっていた。
資産隠しについて勧められたりもした。
僕も人間だから正直考えなかったと言えば嘘になる。
でもやらなかった。と、いうよりできない状況であった。
これは会社を倒産させようとする方々は皆考えると思うが、約1年がかりくらいで本当に計画してやらないと現実問題無理である。
いわゆる「計画倒産」というやつだ。
僕は現に、通帳から約2年分の振込みと現金出金の証明を求められた。
少しでも怪しい動きのお金があれば容赦なく追及される。
僕も会社の末期には、顧問税理士に費用が払えず帳簿もつける事ができなくなっていた為に、この件はすごく苦労した。
特に個人からの借り入れなどの場合は信用で借りているので契約書がなかったり、現金で受け取った為に現金で入金して、利息を上乗せして返済していた為につじつまが合わなかったりしているのだ。
今考えれば、やり方はあったのだと思うが、窮地にたたされる事が多かったのでそこまで頭がまわらなかったのだ。
僕はいよいよ本当に殺される恐怖に怯えていた。
「逃げよう」
それしか思いつかなかった。
ひとまず自宅と会社から離れた場所のまんが喫茶にこもった。
しばらくここで過ごそうと思っていた。
今どきのまんが喫茶はシャワー完備などが主流らしい。
僕が泊まっていたところは、そんなものはないらしい。
狭くて汚いし、人数入るわりにはトイレは一つだけ。。。
そこにきて2週間が経った。
もちろんまわりからの連絡は弁護士以外シャットアウトした。
これが社会問題になっているネット難民てやつか。
そう思いながら我慢していたのだが、こんな生活でも結構お金がかかってしまう。
どこに逃げるか。。。
色々調べていたら「マンスリーマンション」というのが安くて家具付きという事がわかった。
僕は早速借りる事にした。
賃料は一日あたり2000円の部屋にした。
11㎡の狭い部屋であったが、まんが喫茶に2週間住んだ僕にしてみれば昇格だろう。
僕はしばらく住むことにした。
車はベンツのSクラスに乗っていて、住まいはほぼ夜逃げ状態。
なんて情けない話だろう。
このマンスリーマンションには2月いっぱい住んでいた。
他の居住者はご年配の女性、若い男性、女性など様々だったが、みんな訳ありだろうか。。。
そんな事ばかり考えていた。
僕が人生の中で生きる気力と意味を失いかけていたのは、本当にこの時期だけではあるが、やはりこの部屋でもそんな事を考えたりもしていた。
この年は大雪だった。
大雪が2回もあって出かけるのもままならない日だった。
僕もいい加減逃げることにも疲れていた。
逃げたら逃げたで、まわりの状況がわからなくなるので不安になるものだ。
何を考えていたかはわからないが、この日に迷惑をかけたお客さんと電話で話した。
このお客さんは実は以前、僕の実家まで行き、僕の父に涙ながらに僕と連絡を取りたいと訴えていた事があった。
正直申し訳ない気持ちでいたのだずっと。
逃げる自分にも嫌気がさして電話したのだろう。
「私たちは〇〇社長(僕)を信じて大きい買い物をしたんです・・・。会社は倒産すれば終わりかもしれないですが、私たちは始まる事もできなくなってしまったんです。」
このお客さんは、僕の会社で建築中のお客さんだ。
建築中の資金が払えず建築がストップしてしまっていたのと、破産手続きをしたので、工事が完全に止まってしまっていた。
建築工事の中間金なども頂いていたが、既に支払って頂いている分に見合うところまで工事ができずにいて最悪な状況になっていた。
僕は本当にお客さんに幸せになってほしくて会社を始めたのだ。
ところが今の状況は殺人に近いものがある。
もはやそれ以上なのかもしれない。
「こんな人の幸せを奪うような人間なら生きている価値がない。」
「死んだほうがよっぽど世の中のためになる。」
外は大雪が降り盛る中、僕は5階の部屋から窓を開けてそう考えていた。
いっそ飛び降りようかと。。。
白くてきれいな雪が真っ赤に染まるのかな。。。
僕の血ははたして赤いのか。。。
死ぬ勇気すらなかった。
僕にできるのは、もう泣くことしかできなかった。
どうせ生きるしかないなら、少しでも良い事をしよう。
少しでも多くの人のために。
どんな事でもいい。
人のためになるなら。
僕は心からそう誓っていた。