会社を倒産させるという事

35歳で会社を倒産させた壮絶な日々を赤裸々に綴ります。

7.Xデー

2014年1月

 

僕は中途半端な気持ちのまま正月を迎えた。

12月31日まで鳴り響いた電話も急に静かになっている。

「そうか、さすがに正月は鳴らないんだな。」

そう思った。

何か月ぶりの平穏だろうか。

ここまでくると逆にそれはそれで不安なものだった。

嵐の前の静けさ・・・。

それは的中だった。

1月3日からやはり電話が鳴りだし4日は土曜日であったが、すごい鳴りようであった。

着信音はごく普通の音にしているが、この音も殺気立って聞こえる。

早く弁護士を探さなくては。。。

 

6日月曜日になり、僕は知り合いに頼って会社破産に強いという弁護士を紹介してもらう事になった。

悩む暇も吟味する時間も余裕もない。

もうすぐにでもお願いしたい気持ちばかりが焦った。

最初は電話で弁護士の先生と話した。

今までの経緯や顧問弁護士にお願いできない理由などを簡単に話した。

後日先生と会う時までに「債権者リスト」を個人分と法人分作成するよう言われた。

法人分は作成していたが、個人分は作成していなかったので急いで作成した。

この時の必要資料は下記の通り

◆債権者リスト 個人分と法人分

◆債権内容をまとめた書類

◆決算書すべて(3期分)

◆会社で保有する在庫をまとめたもの

  ※車やコピー機、不動産などあれば

◆通帳すべて 個人分と法人分

◆金融機関等の借入返済表

◆各種契約書関係

◆各種請求書関係

◆印鑑 個人と法人

◆社員に会社の状況を説明しておくようにとの事

これらを揃えるには会社に行く必要があった。

行きたくないなんて事は言ってられないので、僕は深夜にこっそりと会社に行った。

とはいえ、夜は夜で照明をつけなくてはいけなくなるので、もうすぐ明るくなるであろう朝方4時半に行った。

今、債権者に会ってしまうともう僕を逃がさないだろう。

必死だった。

特別な書類があるわけではなかったのですんなり揃った。

いつもきちんと事務の子が整理してくれていたからだろう。

なんかまた申し訳ないなという気持ちになって泣けてきた。

と、同時に僕にはまだ大事な仕事があるのだ。




社員に倒産しますと言わなくては。。。




これは本当に気が重かった。

ただ、この時には僕以外では2人だけだった。

2人だけだからこそ親密な社員なのだ。

しかも僕の会社を気に入ってくれていた。

僕は本当に幸せだったのだ。

頑張って働いてくれている姿や、食事などに行って楽しく過ごした時間の事とか思い出すことは山ほどある。

やっぱり僕には財産だった。

2人に話した時の事はいまだに忘れられない。

思い出すと胸が締め付けられてしまうのだ。

1人は営業マンだったので、他の会社へ斡旋する事でなんとか理解してもらった。

彼はけっこう会社の為に働いていたという自負があったので、最初は「なんでお金がなくなるんですか?」など納得できない様子でいたが、あくまで僕は自分のせいで申し訳ないと謝罪をするしかなかった。

この彼とは、その後また金銭トラブルになってしまったので、やはり書面などでちゃんとした形で同意を得ておくべきだったと反省している。

とはいえ、あの精神状態でできたのかは疑問ではあるが。。。

 

もう一人は女性の事務の子だった。

この子は僕の知り合いの紹介で働きだしたのだが、1年くらい務めてくれた。

働いたのは1年くらいだが、僕ももっと前から知っている子だったので、ずっと働いてくれてたかのような印象すらあったくらいだ。

会社をたたむと話したら、この子は泣いてくれた。本気で。

「私は○○(僕の会社名)が好きだった。」

僕の胸にグサリとナイフが刺さったかのような衝撃を受けた。

最後のころはクレームと債権者からの厳しい電話対応ばかりしてくれていて、本当に嫌だったろうに。

この子が最後の出勤を終えて帰った後、僕はやはり泣いてしまった。

実は年末にこの子のお父さんがお亡くなりになっている。

僕も会社の代表として葬儀に出席させていただいた。

この時にはもう会社を倒産させる気持ちは固めていたので、この子にもご両親様にも本当に申し訳ない気持ちでいたのをよく覚えている。

お父さんがお亡くなりになって間もなく勤めている会社が倒産するなんて、悲しいだろうなと。。。

それもあって僕は本当話すのに勇気が必要だった。

実は今も最後の給料を払えていない。

手渡しで渡したのだが、「受け取れない!」と言って僕に返したのだ。

本当に泣きそうになった。いや、また泣いた。

もうどれだけ涙を流したかわからないくらい毎日のように泣いていたと思う。

やっぱり人が大事、本当にそう思った。

僕がまた経済的にも精神的にも力をつけた時には、この子が困った事があれば、僕は自分の身を削ってでも助けてあげたいと心から思っている。

社員解雇も終わった。。。

もう僕は疲れ切っているのだが、最後の大仕事に向かう時がきた。

とうとうXデーを迎えるのだ。

ちなみに説明不足であったが、「Xデー=倒産の日」らしい。

明確な定義はどの日を指すのかはわからないが、僕は弁護士に依頼した日と解釈して進めていた。

 

そうして僕は弁護士事務所にすべての書類を持って行った。

「先生、すべて終わりました。お願いします。」

 

こうして取り急ぎ弁護士の先生からすべての債権者に「受任通知」を送ってもらった。

「受任通知」というのは、会社が破産手続きに入った事、弁護士が依頼を受けている事、債務者(僕)と直接連絡をとらない事を明記した書類だそうだ。

これが翌日には債権者の手元に届き、それからのやりとりは僕にかわり弁護士の先生が行ってくれるとの事。

25件あったのできっと混乱を招くだろうなと容易に想像がついた。

 

僕は会社を倒産させるという事は、これでほぼ終わりだと思っていた。

あとは先生に全て任せるものだと思っていた。

もちろん債権者集会に出席する事などはネットの情報や先生からの説明で知っていたわけだが。。。