会社を倒産させるという事

35歳で会社を倒産させた壮絶な日々を赤裸々に綴ります。

6.誤算そして誤算

不動産会社の社長としてお客様との最後の仕事だった。

もうこれ以上はやりたくてもできない。

最後くらい良いものにしたいと思っていた。

 

会社経営もこのくらいまでいくとどこからも運転資金を貸してくれる金融機関がなくなってしまうものだ。

当然僕も銀行やノンバンクにあたっていた。

1社だけノンバンクが1000万円を貸してくれていたのだ。

ところがその返済期日も過ぎており返せずにいた。

当然その会社からも毎日連絡がきていた。

自宅にも来ていた。

問題はここからだ。

 

僕は申し訳ないとは思いながらも、この会社には返済できずに会社を倒産させるだろうと思っていた。

ところがだ。

お客様にお引渡しする土地をその会社が差し押さえてしまったのだ。

引き渡しまであと10日。

登記簿謄本を確認した司法書士からの連絡でそれを知った。

僕は焦った。

中々文章では臨場感が伝えられないが、背筋が凍りついた。

この土地を引き渡して丁度1000万円残る予定でいた。

その1000万円を差し押さえられてしまったのだ。

この頃、建築現場もあったが、工務店への支払いも滞っていたので7件の建築現場の工事がストップしていた。

けっこうな金額ではあったが、焼け石に水かもしれないが工務店の社長にこの1000万円を支払う約束をしていた。

僕のせいでこの工務店の経営も危うくなっていたのだ。

本当にお世話になった社長なので、少しでもできる限りの事はしようと思っていたのだ。

もう限界地まできている事は十分伝わってきていた。

払えないって知ったら自殺するんではないか・・・。

はたまた殺されるんではないか・・・。

もうなんにも手につかないくらい何もかも嫌になっていた。

 

不特定多数の方が見ることができるブログなので、書けるギリギリのところで書いてはいるが、実情は全てもっともっとひどかった。

だいたいこのくらいまでなってくると、道を歩くにしても必要以上にキョロキョロしてしまう。

なるべく人に背中を向けないようになる。

異常なほどに音に敏感になる。

眠れない、寝たら起きれない。

起きて携帯電話の着信履歴を見たくない。

落ち着ける時間がない(深夜も電話が鳴ってる)

こんな状態になる。

 

話を進めます。

 

1000万円の差し押さえはついたもののお客様への土地の引き渡しは差し押さえを解除して無事に終わった。

この日のうちに工務店の社長に連絡をして約束していたお金を支払う事ができなくなった旨、あとは会社をたたむ事を伝えた。

僕が外部の人に初めて伝えた瞬間だった。

工務店の社長は僕にこう言った。

「なんとか頑張れないんですか?でもここまできてしまっているし無理ですよね。僕もきついからわかりますよ。社長(僕の事)の事だからまた別の形でうまくやるつもりでしょ?その時は助けて下さいよ。」

意外だった。罵声のひとつもあるかと思っていた。

電話を切って僕は悔しいやら情けないやら申し訳ないやらで、涙が止まらなかった。

この社長は毎回債権者集会に出席している。

来月のも間違いなく来られるだろう。

僕が一番迷惑をかけてしまったと思っている人だが、今まででたったの一回も僕を責めなかった。

迷惑を掛けてしまっている方は多数いるので、一番という言い方は語弊があるかもしれないが、金額的にも、それをとりまく様々な事柄的な意味で。

抱えていた裁判では僕のかわりに責められる立場にもなってしまっているのだ今も・・・。

 

いよいよ業務も終わり、弁護士に会社を倒産させる手続きを進めてもらうようお願いするところまできた。

この後僕には

 

更なる誤算が待っていた。

 

顧問弁護士にアポイントを取り、事務所に伺った。

「先生、以前ご相談した会社をたたむ件ですが、すべて業務が終わりましたので進めて下さい。」

そのように依頼をした。

そのあとの先生の言葉に僕は驚いた。

「実はね社長、私にはそれができないんですよ。」

「・・・!?」

言葉を失いかけたがすぐに

「なんでですか?以前やっていただけると仰ったじゃないですか?」と続けた。

先生の見解はこうだった。

現在依頼して進行中の裁判がある。

こちらは訴えられている側だが、「僕の会社」「工務店」「お客様」の3者が訴えられているのだ。

簡単に言うとこの3者は仲間であるから当然、僕の顧問弁護士が3者を担当している。

ここで僕が倒産となればこの「工務店」「お客様」の2者は債権者となる。

簡単に言うと「仲間」だったものが、「敵対関係」となる。

先生の説明によると、一度弁護した人間を敵対関係にする事は弁護士法に抵触するらしい。

 

僕のXデーは振り出しにもどってしまった。

この時、街はクリスマスも終わりすっかり年の瀬になっていた。

僕は年内に手続きをして、せめて少しでもすっきりした正月を迎えたいと考えていた。

今から他を探してではさすがに間に合わないだろう。

年を越してからXデーを迎える事を余儀なくされてしまった。

弁護士も探さなくては。。。