会社を倒産させるという事

35歳で会社を倒産させた壮絶な日々を赤裸々に綴ります。

2.会社設立から倒産までの軌跡 ~「300万円でやってみろ!」~

K取締役との話から僕は色々と一人で考えた。

なんとなく見当はついていた。

 

29歳の僕は、不動産屋で独立するのが明確な夢だった。

3年くらいはその気持ちを持っていた。

独立するほとんどの人は、自分が独立すると決めたらコツコツと貯金をして目標としていたお金が貯まったら独立をする。

 

ところが僕は違っていた。

独立するつもりでいるのにお金がないのだ。

この頃の年収はいわゆる8桁プレーヤーだった。

毎晩夜の街に消えてしまっていたのだ。

よく遊び、よく働いていたと思う。

だから後悔はしていない。

 

おそらくK取締役は僕に独立しろと言うのだろう。

 

「さぁーて、どうするか・・・。」

 

僕はいつものオールバックに新調した裏地の白いグレーのスーツを着込んで愛車のBMWでK取締役の待つ会社へ向かった。

当時僕が気持ちに迷いを持った時に決まって聞く曲は尾崎豊の「十七歳の地図」だった。

 

ちなみにK取締役の会社というのは、新築一戸建てを造る建売会社である。

僕がやりたいのは、それを売る仲介会社だ。

K取締役は自分の会社の物件を売ってくれる人間を探しているはずだ。

それで僕に目を付けたのだろう。

 

そもそも僕は不動産を売るという事に絶対的自信を持っていた。

独立を考える人はみんなそうかもしれないが、とりわけ僕は人よりも売るための勉強をしてきたという自負があった。

初めて入った不動産会社の風習もあったかもしれないが、今では信じられないぐらい厳しい会社だった。

夕方18時からは受話器を手にガムテープで固定されて案内がとれるまで電話をかけ続けるなんて日もあった。

案内がとれなければ23時でも平気で電話をさせられる。

灰皿が飛んできたり、営業マン同士でお客さんの取合いで殴り合いなんてのはザラだ。

もちろん辞める人間も多いが、残る人間は相当精神力の強い人間だ。

これを読んで懐かしく思う人もいるかもしれない。

それが当たり前だった時代のようだ。

僕は厳しい業界の最後の世代で、時代遅れの会社だったと思う。

今はネット見て問い合わせしてきてくれるなんて、なんて楽な時代なんだろうと心底思う。

案内に行って、決めれなかった夜は悔しくて江の島で泣いたりしたものだった。

だから僕は建築の事も勉強して不動産の事も必死に勉強した。

知識をつけて自信を持ったら、僕はあることに気付いた。

 

笑ってくれたお客さんは買う!

 

これに気付いてからの僕は敵なしだった。

当時流行っていたダウンタウンなどを見て研究した。

どうやったら営業にお笑いを取り込めるか。

 

営業方法に関する持論を述べると賛否両論あるのとキリがないのでこの辺にするが、これが未だに僕の礎になっている事は間違いない。

お客さんを接客する僕のテーブルには笑顔と笑い声が絶えない。

家を買うのは楽しい事なんだという考えは僕の原点である。

 

 

「独立か・・・。よしやるぞ!」

 

僕はお金がないにもかかわらず心は決めていた。

そして僕は、いざ独立への扉を開けた。

 

間もなくK取締役とM社長が出迎えてくれた。

その会社の前には当時新型のベンツSクラスとLS600hlが置いてある。

そしてK取締役の風貌。

僕の第一声は

「まるで暴○団事務所ですね。」だった。

会社の脇を歩く猫にすら、気軽に声を掛けれない雰囲気だ。

ちなみにM社長は普通だ。

どちらかといえばK取締役が実権を握っているのはすぐにわかる。

 

ちなみに余談だが、このK取締役という人は会社を潰した今でも付き合っている。

「俺たちはファミリーだ。俺が親ならお前は子。命かけて守ってやる。」

と、言ってくれていて僕の為に涙も流し、体も張ってくれる親分だ。

たまに右手の拳がアザだらけの時があるのが謎だが本当に信頼できる人だ。

 

話を戻します。

前置きもなくK取締役は口を開く。

そして僕との会話は阿吽の呼吸で続く。

 

K取締役 「いつからやるんだ?」

 

僕 「4月からやります。」

 

K取締役 「遅い。」

 

僕 「自分、不器用ですから・・・。」

 

K取締役 「高倉健か!」

 

僕のボケについてきてさすがだなと思った。

 

僕 「それが精一杯です。」

 

K取締役 「わかった。で、金は?」

 

僕 「ありません。」

 

 

 

ドンッ!

 

K取締役はテーブルに100万円の束を3つ叩きつけた。

 

K取締役 「300万円でやってみろ!」

 

僕 「十分すぎるくらいです。ありがたくちょうだい致し・・・」

 

 

ドンッ!

 

K取締役 「返済は10月から。30万ずつ10回、金利5%乗せて持って来い」

 

金銭消費貸借契約書だった。

なんとなく想定内だったので実印を持ち合わせている僕がいた。

 

僕 「それではありがたくお借り致します。」

 

僕は今でもよく300万円握りしめて会社を始めたと話すのだが、実は借りたお金で始めたというのは今ここで初めて暴露した。

とても恥ずかしくて誰にも言えなかったのだ。

 

この日が僕の独立を決定づける日となったのであった。

余計な会話もなく本当にこのように話が進んだのである。

色々と話したのは僕が300万円受け取った後だった。

なんせ僕はK取締役の事をあまり知らない。

興味はあった。

K取締役が僕を取り込もうと決めた決め手はやはりジュリーだったようだ。

前日の忘年会を主催した会社は、業界では大御所だ。

演歌界でいえば北島三郎くらいではないか。

数年前は忘年会で北島三郎を呼んだくらいの会社だ。

そこでジュリーを完璧にやりきって、会場の空気を変えた僕は魅力的だったらしい。

K取締役は過去に部下を300人以上もってきたが、お前のような奴はいなかったと言ってくれた。

 

僕はおだてられると調子に乗るタイプだ。

相当浮かれていたような気がする。

 

この時はまだK取締役と決別する時がくるのを僕は知る由もなかった。

 

こうして僕のいばらの道は始まったのでした。

 

 

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